P R O J E C T 0 2 固化セル内ガラス溶融炉
リプレース工事

世界に誇れる技術を、
過去から未来へ受け継ぐために

2024年に竣工が予定されている、日本初の商業用再処理工場。

原子力発電所の使用済燃料から再利用できるウランとプルトニウムを取り出す過程には、様々な放射性廃棄物が生じる。高レベル廃液もその一つであり、日本原燃ではこの高レベル廃液を溶けたガラス原料と混ぜ合わせて冷却し、「ガラス固化体」として貯蔵している。

こうした処理は「高レベル廃液ガラス固化建屋」で行われており、その要となるのが高レベル廃液とガラス原料を溶かす装置「ガラス溶融炉」である。

現在設置されているガラス溶融炉は、2024年の再処理工場の竣工後、数年程度で新しい溶融炉へ交換しなければならない。巨大な設備を解体し、交換する作業は人が近づけないため、全て遠隔操作によるもの。今回は作業を担当するガラス固化課のメンバーたちに、“その日”に向けた歩みを聞いた。

K O J I F U R U Y A S H I K I

古屋敷 康司

再処理事業部 再処理工場 ガラス固化施設部 ガラス固化課
2011年入社

Y U D A I I S H I B U M I

石文 裕大

再処理事業部 再処理工場 ガラス固化施設部 ガラス固化課
2019年入社

T A K A Y U K I S U M O M O Z A W A

李沢 貴之

再処理事業部 再処理工場 ガラス固化施設部 ガラス固化課
2009年入社

高さ約3mの巨大設備と、全く同じ大きさの
「検証用」設備をつくる

再処理工場から生じた放射性廃液を処理するガラス溶融炉。その交換工事は、現在設置されているガラス溶融炉を解体するところから始まる。しかし、その解体工事もまた、容易ではない。

古屋敷
ガラス溶融炉は、高レベル廃液ガラス固化建屋内の「固化セル」と呼ばれるエリアに設置されています。固化セル内は放射線量が非常に高く、人が立ち入ることができません。そのため全ての作業はパワーマニプレータ(ロボット)やクレーンによる遠隔操作で行う必要があり、私たちガラス固化課は、固化セル内に設置された機器を遠隔によって保守管理しています。

現在設置されているガラス溶融炉(1号炉)は、2007年に実際の使用済燃料を用いたアクティブ試験が始まり、現在は最後の使用前事業者検査を控えている状況である。2024年の再処理工場竣工時は、ガラス溶融炉の1号炉を稼働させる予定。しかし、機器の設計寿命に伴い、竣工から数年程度で新型ガラス溶融炉(2号炉)への交換工事が計画されている。

李沢
ガラス溶融炉の交換工事では、1号炉とその周辺装置を取り外し、同じ場所に2号炉を設置します。取り外した1号炉の解体作業も私たちの仕事。ガラス溶融炉は縦・横・高さがそれぞれ約3mあり、私たちが固化セル内で扱う機器としては、これまでで最大となります。

1号炉には数百個の部品があり、それらを遠隔操作で一つひとつ取り外していく。取り付けについても同様だ。交換工事に与えられた期間は10ヶ月。当然、一発勝負というわけにはいかない。研究開発拠点であるガラス固化技術開発施設では、事前検証に向けた準備が進められている。

古屋敷
事前検証では、実物のガラス溶融炉と同じ大きさの「模擬体(モックアップ)」を使用した試験を計画しています。模擬体で1号炉と2号炉の違いを確認し、遠隔作業の手順を本番と同じように検証するのです。2021年より模擬体の設計を始め、検証を経て、竣工から数年後の作業を滞りなく完了させる。これがガラス溶融炉の交換工事における、私たちガラス固化課のミッションです。

目で確かめたことがないものを
イメージする

ガラス固化課のうち、遠隔保守や遠隔解体に携わるメンバーは5名。古屋敷、石文が取り外しや取り付けなどの遠隔保守作業を、李沢が遠隔解体作業を主に担当する。

李沢
固化セル内で解体された部品もまた、放射性物質によって汚染されています。それらは、専用の廃棄物容器に格納され、廃棄物を管理する建屋に運ばれます。廃棄物容器には大きさの制約があるため、解体作業ではいかに少ない手順で細かく解体・切断するかを考えねばなりません。ガラス溶融炉のような大型機器の解体はこれまでに例がなく、解体しなければならない部品も膨大になります。

解体に用いる機器もまた、自分たちで設計する。固化セル内にある解体機器は李沢が入社以来、設計・検討、製作、据え付け工事までを一貫して担当してきた。入社当初は何もなかったスペースに、設計した全ての機器が導入された時は「大きな達成感を覚えました」と李沢は話す。

李沢
私が入社したのは2009年で、高レベル廃液ガラス固化建屋が完成した後だったので、固化セル内の状況を自分の目で確かめたことがありません。そのため、解体機器の設計では、映像や図面から固化セル内にある設備のサイズをイメージしなければなりませんでした。2013年にガラス固化技術開発施設が竣工したことで、ようやく実規模の模擬体で固化セルを体感できたのです。実際に機器に触れたこの体験が、解体機器のクオリティにつながったと感じます。

ガラス溶融炉本体の切断計画、解体機器のハンドリング確認、解体手順の確立など、ガラス溶融炉解体に向けた事前検証は多岐にわたる。解体機器の完成からこれまで、いくつもの設備を解体してきた李沢の経験が生かされる時だ。だが、李沢はまだ自分の技術に満足していないという。

李沢
固化セルにはまだ多くの設備が設置されています。対象となる設備を適切に解体するには、まだまだ経験が必要だと感じます。現在は実際の作業を操作員に依頼するポジションであるため、現場とのコミュニケーションも重要な要素です。模擬体での検証を通じて、より解体の精度を高めていければと考えています。

かつてないスケールの工事を、
技術伝承の機会に

1号炉の解体を終えた後、2号炉の設置作業はクレーンやパワーマニプレータを操作して行う。その遠隔操作員になるためには、教育を1年程度受講後、定められた試験に合格し、認定を得なければならない。

これまで認定を受けた社員は日本原燃の中でも20名弱。遠隔操作員は社内でも特殊な業務を任されている人材であり、この国にとっても途絶えさせてはならない、重要な技術者と言える。2019年に入社した石文も、遠隔操作員の認定を目指す一人である。

石文
固化セル内に設置された「テストスタンド」という訓練設備で、パワーマニプレータの操作を実際に学んでいます。現場の操作だけでなく、作業指示書やリスク評価、他部署との調整など、事前事後の手続きを行うことも訓練の一つです。

石文の講師役は、古屋敷が務めている。通常の遠隔保守業務と並行しながらの教育となるが、古屋敷には「ガラス溶融炉のリプレースでは、石文が中心的存在になってほしい」という想いがあった。

古屋敷
現在、遠隔操作員たちは勤続15年~20年のベテランが多く、後進の育成は急務です。ただ、遠隔操作員として独り立ちするには、5年ほどの月日がかかります。若手の操作員が今回のガラス溶融炉交換工事を経験できなければ、技術的なノウハウが途絶えてしまいかねません。5年先、10年先に、再びガラス溶融炉の交換が発生した時のためにも、技術伝承を進める必要があります。

パワーマニプレータの操作は、固化セル内を映す複数のカメラを切り替えながら、手元のレバーで行う。2次元の映像から3次元の空間を思い浮かべねばならず、思い通りにクレーンを操作するには、固化セル内の機器配置を全て把握することも求められる。

石文
コロナ禍で訓練ができない日が続いた後は、感覚を取り戻すのに苦労しました。自分の中にスキルを染みこませるために、復習を習慣づけ、作業手順を自分なりにフロー化するようにしています。思い通りに動かせた時はやはり嬉しいですし、自分の技術が向上することにやりがいを感じています。
古屋敷
かつては私も、李沢と一緒に遠隔操作員の訓練を受けていました。マニプレータの特殊な操作はもちろん、固化セル内の機器に接触してはならないという緊張感も相当なものです。施設や設備の安全にも関わりますからね。石文が感じている「壁」がわかるからこそ、頑張って乗り越えてほしいと願っています。

過去から未来へと続く大きな流れの中で

ガラス溶融炉交換工事のインパクトは、物理的なスケールの大きさだけに留まらない。約15年を要した解体機器の完成、5年先を見据えた人材育成、そして将来にわたる再処理施設の安定操業。過去から未来へと続く、長大なスケールの中で、メンバーたちは「今できること」に取り組む。

石文
先輩たちの期待の高さは、身に染みて感じています。だからこそ早く認定を取得し、その期待に応えたい。ガラス溶融炉交換工事で遠隔保守作業の中心を担えるよう、もっと経験を積みたいですね。
古屋敷
もし工事期間が延びるようなことがあれば、再処理工場の運転に影響を与えてしまいます。そうならないよう、事前の検証を計画的に実施し、作業手順を確立させること、そしてなにより、1名でも多く遠隔操作員を育成したいと考えています。
李沢
トラブルなく完了できるよう、これまで培った技術をもって、安全最優先で取り組むのが最大の目標です。遠隔技術は、日本原燃が世界に誇れる技術。今後もプロフェッショナルとして技術を磨き続け、次の世代へ伝えていければと思います。