JAPAN NUCLEAR FUEL LIMITED

 

平成11年10月15日
日本原燃株式会社
 

六ヶ所原子燃料サイクル施設の安全確保対策について

 
 

1.臨界事故に対する当社緊急対応状況

 

 JCO東海事業所の臨界事故は、わが国の原子力安全に対する社会の信頼を根底から揺るがす深刻な事故であると受け止め、当社は直ちに保安防災会議の下に本社及び六ヶ所本部JCO事故対応本部を設置する等以下の活動を開始した。

(1)

JCO事故対応本部の活動

今までに実施した活動の主要項目を示す。

1)

事故情報の収集、分析(事故発生直後より継続実施)

2)

ウラン濃縮工場稼働設備の安全確認(9月30日)

3)

全施設に対する、操作手順及び手順書(要領類)が保安規定に基づくものであることのチェックを中心にした緊急安全総点検(10月4〜8日)

4)

安全監査による緊急安全総点検結果の確認(10月12、13日:ウラン濃縮工場及び使用済燃料受入れ・貯蔵施設は本社安全担当(副社長)が、低レベル放射性廃棄物埋設センター及び高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターは六ヶ所本部安全担当(六ヶ所本部副本部長)が実施)

5)

電気事業連合会要請に基づく東海地区へのモニタリング支援班(合計37名、モニタリングカー1台、放射線測定器14台)の派遣(10月1〜8日)

(2)

安全強化に関する社長訓示及び社達公布

 社長が本社並びに濃縮・埋設事業所及び再処理事業所の全社員(東京事務所は専務取締役が対応)を対象に安全への一層の取り組み強化を行うよう直接訓示するとともに(10月4日)、同主旨の社達を全社員に公布した(10月8日)。

 

2.当社施設とJCO転換試験棟との違い

 当社4施設とJCO転換試験棟との臨界安全という観点からの違いを検討した。JCOにおいては事故当時、高速増殖実験炉「常陽」向けの濃縮度18.8%のウランを水溶液系で取り扱っていた。高い濃縮度のウランを水溶液系で取り扱うと中性子が減速されて核分裂を起こし易くなる。しかし、ウランは高い濃縮度であっても放射能が低いので手作業が可能である。これらのことから、臨界安全管理に対する注意が特に必要となるが、不十分な安全管理と教育が相まって事故に至ったとされている。
 一方、当社ウラン濃縮工場では濃縮度0.7%の天然組成の六フッ化ウランを軽水炉燃料用に遠心分離機を用いて5%以下の範囲で濃縮している。濃縮度が5%以下であるので、六フッ化ウランを取り扱う機器の内部に水が侵入しなければ、無限量集まっても臨界にはならない。主要工程の六フッ化ウランは密封・遠隔制御下で取り扱っており水が入る余地はない。また、濃縮度については5%を超えないよう濃縮度管理インターロックを設置する等の十分な臨界防止設計を行っているので、類似の事故は設備面から確実に防止されている。さらに、安全管理と教育の徹底、モラル向上策により高い安全性を確保している。
 使用済燃料受入れ・貯蔵施設では、原子力発電所で燃焼した使用済燃料集合体を水深約12mのプールに貯蔵する。受け入れる集合体の残留濃縮度は3.5%以下であるが、殆どが2.0%以下である。遠隔制御で安全形状のラックに収納するが、誤装荷防止装置も設置されているので、類似の事故は設備面から確実に防止されている。さらに、安全管理と教育の徹底等により高い安全性を確保している。
 低レベル放射性廃棄物埋設センターでは、原子力発電所の操業に伴い発生した低レベルの放射性廃液、使用済樹脂等をセメント等で固型化したものを埋設している。高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターでは、使用済燃料からウラン及びプルトニウムを分離除去した核分裂生成物を主体とする残滓をガラス固化したものを貯蔵管理している。いずれも臨界安全上有意な核燃料物質を含んでおらず、臨界のおそれは全くない。
 なお、建設中の再処理工場本体施設においても、安全設計、安全管理、教育等に万全の対策を行い臨界を確実に防止する。しかし、溶解槽においては臨界管理の方法がやや複雑であることに鑑み、万一の事故想定を行っている。この場合、臨界警報装置により事故発生を検知することが可能であり、さらに自動作動の臨界停止装置が設置されるので事故は直ちに終息する。

 

3.当社の安全管理体制と安全への取り組み状況

 当社は創業以来「安全確保の徹底」と「地域との信頼関係の確立」を経営の基本方針として原子燃料サイクル事業を推進してきた。旧動燃アスファルト火災・爆発事故、原電工事のキャスクデータ改ざん問題等社外で発生した事故においても自らの問題として捉え、教訓を反映して六ヶ所サイクル施設の一層の安全性向上施策を進めてきた。安全への取り組み状況等は以下のとおり。

(1)

安全確保には責任ある管理体制が必要である。当社は職制規程、職務権限規程等により責任と権限を明確にした組織により安全確保活動がスムーズに行えるようにしている。業務内容の進展に伴い、責任が適切に遂行されるよう組織変更を逐次行っている。

(2)

安全確保のための品質保証活動を重視しており、原子力発電所品質保証指針に準じたシステムを構築している。品質保証活動は、業務を行う手順を予め定めたルールに従い手順書にし、業務を手順書どおりに実施したことを記録に残すことを基本としている。品質保証活動を維持することは今回の臨界事故の原因とされている手順書及び手順の逸脱を防止することにつながる。当社は品質保証活動を全社的に推進するため、各施設に品質保証担当を、各事業所に品質保証推進会議を、さらに全社活動を総括するため副社長を主査とする品質保証会議を設置している。また、副社長(安全担当)による定期的な監査等により、このような活動が適切に行われていることを確認している。さらに、キャスクデータ改ざん問題の教訓反映として、操業施設に対し第三者専門機関の審査を継続的に受けるISO 9002国際品質システム規格の認証取得活動を進めている。

(3)

当社施設の安全確保及び社内外事故への対応を総括するために、保安防災会議を設置している。今回の事故対応も保安防災会議の下で行っている。また、社員の原子力安全文化を確立し地元の信頼を得ることを目的として安全文化推進会議を設置している。

(4)

社員が常に緊張感を持ち、使命感と責任を持って業務に当たることは、安全確保の前提である。当社は安全確保を最優先に考えた業務遂行、社会的使命の銘記、社会ルールからの逸脱のない行動等を全社員に求めた「日本原燃行動憲章」の制定を昨年12月に行い、全社員への周知を図っている。今後、行動憲章ガイドブックを作成配布する等により定着活動を強化する。

(5)

操業施設は、保安規定に基づき定期的に自主検査を行っている。また、再処理工場、高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターに対しては、年1回の国の定期検査が法により定められている。なお、再処理建設所においては、検査を含めた品質保証活動を強化するため本年7月に品質保証部を設置した。

(6)

協力企業については、発注時に品質保証活動に係る計画書の提出を求め、計画内容を確認するとともに適宜監査により活動状況の妥当性を確認している。また、当社との間で構成される安全推進協議会等を通じ安全確保の徹底を行っている。

 

4.安全教育について

(1)

原子力施設において高度の安全性を確保するには、安全装置の設置等設備面において十分な対策を講じるとともに運転員が責任感、使命感と高い技術力を持って業務に当たることが必要である。当社は入社時の受入教育、配属部署でのOJT(on-the-job-training)、各部門における専門研修、保安規定に基づく教育・訓練、異常時対応訓練等多角的な教育・訓練を計画的に行っている。また、個々の技術系若手社員に対して、担当課長が年度初めの教育計画を本人と面談し策定するとともに年度末においては結果の評価を行い、次年度計画の参考とすることとしている。
 臨界安全に関する教育についても上記教育の中で実施している。入社時受入教育の安全設計講座の中に臨界の基本事項を入れており、再処理部門の専門研修の中には臨界安全基礎講座、計算コード実習講座(臨界)、再処理施設安全設計講座(臨界安全設計を含む)等を入れている。社員研修に当たっては東北町に設立した青森原燃テクノロジーセンターを活用している。
 このような体系的教育を通し、施設の安全操業に必要な技術力の維持・向上を図っている。さらに、再処理工場の運転開始に向けて、高度な専門技能を有する技術者の育成についても重要課題として取り組もうとしている。
 さらに、今回の事故の教訓を反映させて臨界教育の一層の充実を図りたい。

(2)

協力企業の従業員については、当社施設入所時に保安規定に基づき必要な教育を行っている他、安全推進協議会等を通じ安全教育の徹底を行っている。

 

5.緊急安全総点検の実施と結果

 当社は、事故発生後直ちにウラン濃縮工場の安全操業確認を実施したが、その後得られた事故原因等の情報に基づき10月4〜8日にかけて4施設に対し以下の緊急安全総点検を実施した。さらに、12、13日に安全担当(副社長、六ヶ所本部副本部長)の安全監査を実施し、総点検結果が妥当であることを現場にて手順書、記録等を照合して確認した。

5.1 手順書等の点検添付資料参照

 当社は国に許可を受けた事業許可(指定)申請書に基づき、保安上重要な事項について保安規定に定め国の認可を受けている。施設の運転、保守、管理等については、保安規定の内容を遵守するための具体的方法を手順書に定めている。今回の事故原因は違法な作業手順書が作成され、さらに手順書外の作業が行われていたためと伝えられていることから、当社4施設において不適切な手順書の作成や手順書から逸脱した作業を行っていないことを再確認するための点検を行った。
 点検は、保安規定に記載している保安上重要な事項とそれを具体化した手順書の内容に食い違いのないこと及び手順書の内容と実施記録(運転記録、保守記録等)との間に食い違いのないことを確認することにより行った。
 点検の結果、4施設において食い違いのないことを再確認した。なお、今回の点検を契機として手順書の充実等さらなる改善を図ることとした。

5.2 手順書から逸脱した場合の安全性確認

 今回の事故は手順書から逸脱した作業が直接臨界事故を引き起こしており、逸脱が事故へ拡大することを防止する対策がなかったとされている。
 このことから、4施設に対し手順書から逸脱した誤操作等が事故の起因事象となる可能性がある場合について、拡大防止対策の妥当性を再確認した。
 ウラン濃縮工場においては、カスケード運転条件の設定は複数の運転員が相互確認するので誤操作の可能性は極めて小さいが、誤った設定を仮定した場合でも毎日1回質量分析装置等により濃縮度確認を行っていることから、目標濃縮度を逸脱することはない。また、万一逸脱した場合は5%を超えないよう濃縮度管理インターロックが作動するため安全上の問題は発生しない。
 使用済燃料受入れ・貯蔵施設においては、高残留濃縮度燃料を低残留濃縮度燃料用の仮置きラックに収納しようとする運転員の誤判断を想定した場合でも、濃縮度区分は燃焼度計測装置の測定結果に基づき複数の運転員が判断し相互確認することとなっており1人の運転員の誤判断は誤操作に至らないこと、さらに誤操作を実施しようとしてもインターロックにより燃料取り出し装置が作動しない設計となっていることから、事故に至ることはない。
 高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターにおいては、運転員がクレーンの所定の走行範囲、吊り上げ高さを逸脱するような操作をしようとした場合でもインターロックが自動作動し、事故に至ることはない。
 低レベル放射性廃棄物埋設センターにおいては、運転員が誤って廃棄体の吊り上げ中につかみ具の開操作を行おうとしても、機械的な保持機構が設けられているので廃棄体の落下する事故に至ることはない。
 4施設における検討の結果、上述の例のように運転員の誤操作等を仮定した場合でも、インターロック、複数の作業員の確認等の多重防護の考え方に基づく適切な事故防止対策により周辺環境へ影響を及ぼすおそれのある事故には至らないことを再確認した。

5.3 通報連絡体制の点検

 今回の事故において、事業者からの通報連絡の遅れが指摘されている。このことから、当社の通報連絡系統及び連絡先名簿が最新の状態に維持・管理されていることを点検し、再確認した。なお、迅速な通報連絡には日頃の訓練が重要であるので、実践訓練に努める。

 

6.情報公開について

 原子燃料サイクル事業に対する地域の皆様の安心と信頼を得るには、サイクル施設の安全運転の実績を積み重ねることが大前提である。加えて、当社としては、事業内容、事業の進捗状況及び事業運営等に係わる様々な情報を的確に公開し、当社事業の透明性を高めていくことが重要であるとの基本的認識のもとに広報活動を行っている。
 特に安全に関する情報については、故障、トラブル等の迅速かつ正確な情報伝達はもとより、情報公開コーナーでの資料公開、プレスへの情報提供をはじめ、各種広報誌、六ヶ所サイクル施設の見学等を通じて日頃から適切な情報提供に努めている。
 このような活動は、アスファルト火災・爆発事故の教訓反映策として社内に設置した安全文化推進会議においても、最重要テーマの一つとして推進しているところであるが、今回の事故による県民の皆様の不安を解消するために、さらに具体的対策の充実を図っていく考えである。
 とりわけ、当社サイクル施設における多重防護の考え方、臨界安全管理の仕組み及び安全教育への取り組み等ハード・ソフト両面にわたる安全確保対策について、ご理解いただくことが重要課題と考えており、そのため可能な限り資料の公開に努めるとともに各種広報誌、見学会をはじめ、インターネット上のホームページ等を活用していくといった情報内容面と併わせ、情報連絡の面においても充実を図り、一層、迅速・的確かつ分り易い情報提供に努めていきたい。

 

7.防災体制の充実・強化について

 六ヶ所サイクル施設の安全設計には多重防護の考え方を導入するとともに運転員の操作及び異常発生時の措置に関する教育・訓練を徹底することにより、安全確保には万全を期す。このようにして、地域の皆様に影響を与えるような災害は将来にわたり確実に防止できることを確信しているが、同時に万一の災害を想定しても適切な措置がとれるよう防災体制、対策を充実する。
 当社はこれまでも非常災害対策規程、非常時対策組織等の社内体制の整備、通信連絡設備、放射線防護資機材等の整備並びに各種防災訓練の実施などにより防災対策の充実を図ってきたところである。しかし、現在国において進められている再処理施設防災対策検討委員会の検討結果等を踏まえつつ、再処理工場の運転開始に向けて当社防災体制及び資機材を順次強化する。さらに、今回の事故に鑑み国において原子力防災に関する新法制定の検討が進められているので、その検討状況を踏まえより実効性のある防災体制の確立を図る。

 

8.おわりに

 今後事故原因等の調査が進められ、新たな知見が得られれば、これを教訓として幅広く取り入れる検討を行い六ヶ所サイクル施設の一層の安全性向上に役立てる所存である。

 

以 上

 


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