ウラン試験の概要

  


  原子力発電所で使い終えた燃料(使用済燃料)から燃え残りのウランや原子炉の中で新たに生まれたプルトニウムを取り出すことを「再処理」といいます。使用済燃料の中には、約97%の再利用可能な資源が残っていますので、再処理することによってこれらの資源を有効に活用することができ、わが国のエネルギーの長期安定供給に大きな役割を果たします。

 

再処理工場のしくみ
 再処理工場では、硝酸等の化学薬品を使って使用済燃料から有用な資源であるウラン、プルトニウムを回収し、残りの核分裂生成物(高レベル放射性廃棄物)は、ガラス固化体として地下深く最終処分するまでの30〜50年間にわたって、安全に貯蔵保管します。ウラン、プルトニウムを回収するのに化学薬品を使うことなど、再処理工場は化学工場といえますが、放射性物質を取り扱うことから、原子力施設としての厳しい管理を行っていきます。

再処理の工程は、大きく分けると6つ!
  工場内の機器は、厚いコンクリート壁に囲まれた部屋に設置されています。
図

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再処理工場の試験運転とは・・・?
 再処理工場では、操業を開始する前に、いくつかのステップを踏んで、次第に実際の運転に近づけながら試験運転を行います。「水や空気」から「化学薬品」、「ウラン」そして「使用済燃料」を使った試験運転へと段階的にすすめていきます。
 これらの試験では、機器の動作や性能の確認等を行い、あわせて機器等の不具合や故障を操業前に早期に見つけ出し、手直しを行います。また、試験を通じて、運転員や保修員の技術向上を図ります。
試験時期


化学試験からウラン試験へ
 平成14年11月に開始した化学試験では、実際の運転で使用する硝酸等の化学薬品を用いて、機器の性能等を確認し、見つけ出した不具合や故障の手直しを行ってきました。ウラン試験のための準備が整った建屋から順次、ウラン試験を開始します。


ウラン試験とは…?
 操業時に処理する使用済燃料の成分のほとんどは、ウランです。そこで、ウラン試験では、操業の状態により近づけるためウランを使用し、ウランを用いなければ確認できない項目について試験を行います。アクティブ試験からは使用済燃料を使用しますが、その前に、使用済燃料よりも放射能レベルが極めて低く、ウラン試験中に発生が予想される不具合等への対応が容易であるウランを使用するものです。試験では、ウラン模擬燃料集合体、ウラン溶液、ウラン粉末の状態で使用し、機器の性能等を確認します。

試験で使用するウランの形態は3種類!

形状
用途
使用量
ウラン模擬燃料集合体 せん断設備を使っての、燃料集合体のせん断処理の確認など
合計約53トン
ウラン溶液 分離、精製、脱硝設備における性能確認など
ウラン粉末 製品を専用の容器へ詰める動作の確認など

脱硝塔
脱硝塔

試験の範囲は徐々に広げます
 ウラン試験は、機器単体→機器を組み合わせた系統→建屋全体→工場全体と、徐々に広げて行います。



不具合や故障が見つかったら…?
 ウラン試験の目的の一つは、機器等の不具合や故障を操業開始までに可能な限り見つけ出し、手直しや調整を行うことです。当社の再処理工場は、フランスやイギリス、また、東海村(核燃料サイクル開発機構)にある再処理工場を手本に一部を改良したものですが、それらの工場でも当社と同様の試験運転を行い、様々な不具合や故障を見つけ出して手直しを行うことにより操業にいたりました。
 不具合や故障は、その内容、原因等に応じて整理し、これらから得られたデータや教訓を工場内の他の設備の試験やその後の試験・操業段階に反映します。

予想される不具合や故障の例(イメージ)
試験によりあらかじめ不具合や故障を見つけ出します。これらは、環境への影響や安全上問題のあるレベルのものではありません。
詰まり、堆積・漏えい
機械動作不良・計測、制御系の不良・電源系の異常・汚染


ウラン試験における安全対策は…?
1
 

放射性物質の取扱い

 〔設備の安全対策は万全ですか?〕

(1)臨界事故は起こりません
ウラン試験では、燃えやすいウラン235の割合が少ないウランを使用して試験を行うため、臨界事故が起こるおそれはありません。

(2)放射性物質の漏えい、汚染拡大の防止
建屋内で試験を行う区域は、放射性物質および放射線の管理を徹底するため、放射線管理区域として管理します。放射線管理区域は、各建屋ごとに試験の開始にあわせて段階的に設定します。
ウランを取扱う機器は密閉しますが、作業に伴って密閉できない箇所では、気密性を保つため小部屋を仮設するなど、区画ごとに放射性物質を閉じ込めます
ウランを取扱う設備は、厚いコンクリートで作られた小部屋(セル)や、手袋と箱を一体にしたグローブボックスの中に設置されており、放射性物質による汚染が広がらないようになっています。
万が一、機器からウラン溶液が漏えいした場合にセルの外に流れ出さないように、機器等の下に設けた受け皿に集め検知します。
空気中の放射性物質がセル外へ漏れないように、セル内の気圧を外側より低くしています。
  汚染:放射性物質が人体などへ付着すること。

グローブボックスによる作業(イメージ図)
グローブボックスによる作業(イメージ図)

 

 〔働く人への安全対策はどうなっていますか?〕

(1)放射性物質による汚染の管理
放射線管理区域の中では、ウランを取扱う作業区域ごとに区画管理し、その区域の出口で汚染検査を行って、建屋内での汚染の拡大を防止します。さらに、最終的には管理区域の出口でも汚染を確認します。

(2)放射性物質の体内への吸入防止
ウランを吸い込むことによる放射性物質としての影響と化学物質としての影響を防ぐために、管理区域内では常にマスクを携帯し、万一、空気中にウランが飛散した場合には速やかに着用して、放射性物質を吸い込まないようにします。

(3)放射線による外部被ばくの管理
作業者には常に警報付線量計を装着させ、放射線による外部被ばく線量を計り管理します。

2
 

化学薬品の取扱い

ウラン試験では、ウランのほか化学薬品も使用します。従業員は、薬品の性質、危険性、取扱い方法について十分な教育を受け、取扱いの際には、薬品の性質に応じ、ゴム手袋、ゴム長靴、メガネ等の防護具を身に付けます。
薬品が漏れないよう、配管等には腐食しにくい材料を使うとともに継手部をしっかり確認します。

3
 

火災および爆発の防止

(1)化学薬品による火災および爆発の防止
化学薬品は、引火点より低い温度で取り扱います。
薬品の温度が設定値より上がると、加熱を自動的に停止します。
静電気による火種が生じないように、機器等には確実にアースを取り付けます。
火災検知器および消火設備の設置、耐火壁による延焼防止を行います。

(2)水素ガスによる火災および爆発の防止
水素を使用する工程では、水素の濃度が高くなると水素の供給を自動的に停止します。

4
 

運転員の誤操作の防止

運転員は、当社研修施設において放射線管理や核燃料物質に関する教育を受け、必要な知識を身に付けます。
中心的な役割の運転員は、ウラン試験を開始する前に、フランスやイギリス、また、東海村(核燃料サイクル開発機構)で操業中の再処理工場等の先行施設で操作訓練を受けて技術を習得します。
操作は、化学試験の結果を反映した試験手順書、運転手順書に従って行います。
万一誤った操作が行われた場合、動作を自動的に停止する設備となっています。


運転訓練

 

環境保全対策は…?
ウラン試験での放射性物質の影響

 ウラン試験では、放射性物質であるウランを取扱うため、施設内に放射線管理区域を設定して、そこから発生する廃棄物は法令等の定めにしたがって管理します。このうち、気体廃棄物と液体廃棄物については、含まれる放射性物質を安全な状態になるまで取り除き、高さ150mの主排気筒や沖合い約3kmの海洋放出管から出します。
  ウラン試験では、廃棄物をきちんと管理することにくわえ、放射能レベルの低いウランを用いるため、放射線による周辺に対する影響はありません。
  発生する廃棄物は、次のように管理します。
1
 

気体廃棄物の管理

 ウラン試験中には、ウラン溶液を使用する試験により、ガスや微粒子等の気体廃棄物が発生します。気体廃棄物中の放射性物質は安全な状態になるまで取り除き、環境への影響がないレベルであることを確認しながら、主排気筒や換気筒から出します。

図、環境放射能の測定
環境放射能の測定

2
 

液体廃棄物の管理

ウラン試験中に発生する液体廃棄物は、蒸発処理等により放射性物質を安全な状態になるまで取り除き、環境への影響がないレベルであることを確認して、海洋放出管を通して海洋に出します。蒸発処理で残った濃縮液は固体にした上で、低レベル廃棄物として管理します。

液体廃棄物の管理

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固体廃棄物の管理

 ウラン試験中に発生する固体廃棄物は、紙・フィルタ等の雑固体廃棄物と、液体廃棄物の濃縮液を固めたもの等があります。それぞれ燃やしたり圧縮したりして量を少なくしてからドラム缶に詰めて、低レベル廃棄物として管理します。 
 また、切断されたウラン模擬燃料の燃料被覆管(さや)の破片は、ドラム缶に詰めて、貯蔵庫で保管します。

固体廃棄物の管理



使用済燃料を使う「アクティブ試験」へ
 ウラン試験により機器性能等を確認したあと、使用済燃料を使う「アクティブ試験」を開始する予定です。
  「アクティブ試験」により、操業と同様の状態で機器や建屋の試験を行い、その結果を分析して安全性を確認した上で、操業を開始する予定です。