広報活動
2017年3月28日

鈴木光司氏と考える科学の進化と日本のエネルギー

「困難に挑戦し人類は前へ進むべき」

青森から見えてくるエネルギーの未来

東京大学教養学部客員准教授

松本 真由美

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作家(代表作「リング」「らせん」)

鈴木 光司

SF、ホラー、恋愛、育児と幅広いジャンルをテーマとした小説、エッセイに挑戦する作家・鈴木光司氏。ストーリー中にキーワードとして「科学」が織り込まれた作品も多く、壮大で論理的な展開に魅了されるファンも多い。「困難には前を向くしかない」と言う鈴木氏。エネルギー、環境問題に詳しい東京大学客員准教授の松本真由美氏を聞き手に、人類と科学の進化の視点から日本のエネルギーヘの思いを語っていただきました。

「人類の進化」とは何か

松本

鈴木さんの作品は、SF、医学、ホラー、恋愛などテーマは幅広いですね。エッセイや育児の本も出されている。特に「科学」がストーリーの中に織り込まれ、重要な要素となっている作品が多いですよね。

鈴木

そうですね。小説『ループ』の中で、父親が娘に向かって「世界の仕組みを理解しろ」と話す場面が出てきます。僕自身の信条でもあるのですが、世界というものは、どのような仕組みでできているのか、人生を通じて知りたいと考えています。そうすると一つのジャンルだけでは不可能です。さらに理解するための道具は、数学や物理などの自然科学になると思うのです。科学全分野の知識を得ることは無理ですが、基本的なことは押さえたいですね。

松本

なるほど。鈴木さんの生き方が小説の中に投影されていたのですね。それで常に新しいジャンルにも挑戦している。人類の進化もテーマにされていますよね。

鈴木

人類の進化には、「困難」が必要ですね。例えば、ネアンデルタール人はなぜ滅んだのか。ネアンデルタール人とクロマニョン人は、同じような時代に同じような地域に生きていました。その後、クロマニョン人は世界に広がっていき、一方のネアンデルタール人は完全に滅亡してしまった。その差は何か。諸説あるのですが、私はクロマニョン人が言語を獲得できたからだと思っています。言語を獲得すると知識が蓄積できます。その知識を使って、生き残るための努力をした。例えば極寒の地でも毛皮を羽織り暮らすことができたようです。言い方を変えれば、困難を克服する手段として言語を得たのだと思います。

松本

人類は困難を言語の力で克服してきた。現代の文明があるのも言語の力によるところが大きいというわけですね。

鈴木

言語の重要性は、例えば旧約聖書の「エデンの園」から考察してみると面白いですね。エデンの園は不安も困難も悩むこともない楽園です。この話を逆説的にとらえれば、もし人類がエデンの園にいたままだったら、何の進化もせず、言語すら持たなかったのではないか。人類は進化の過程において、常に「言葉を磨く」ことで世界を広げてきたのですから。

「言葉を磨く」ということ

松本

「言葉を磨く」とはどういうことですか。

鈴木

「言葉を磨く」というのは、言葉使いを洗練するという意味ではなく、世の中の事象について原理や法則性を明らかにするということです。歴史を紐解くと、例えばコペルニクスは、天動説を数式で説明しようとして、論理的な矛盾に気づいた。そこで発想を転換し、「地球は太陽の周りを回っている」とした論理的に矛盾のない地動説を完成させました。また、ニュートンは、数式を使って世界の仕組みを説明することに挑戦した。万有引力の法則の発見など非常に多くの功績を残しましたね。このように、世界の仕組みは自然科学を上手に使うことでより正確に説明できるようになります。

松本

先人たちが言葉を磨こうとした「意思」を感じますね。それまでの概念を大きく変える事象が目の前に現れたとき、人間の中では思考の転換と現状の維持という葛藤が必ず起きると思うのですが、鈴木先生は私たち日本人の歴史における転換点をどのように捉えていますか。

鈴木

やはり幕末から明治という時代にかけてのパラダイムシフトではないでしょうか。幕末の日本は、黒船がやって来て開国するか、鎖国を続けて異国船を打ち払うかの二者択一を迫られました。開国は、科学など新しいものを取り入れる進化の選択であり、鎖国は、現状維持の選択だったと思うのです。歴史を振り返れば、明治維新は日本にとって成功したと思います。新しいものを取り入れ、前に進むことが必要だ、と歴史も証明しています。だから私は常に「開国派」でいたいと思っています。歩みを止めること、戻ることは自分の生き方にも合わないですし、日本もそうでなくてはいけないと考えるのです。

ファンタジーを語るな

松本

いまそこにある日本の「困難」についてお伺いします。特にエネルギー問題は、かつてないほど揺れています。エネルギー自給率の低下、二酸化炭素の排出量増加、電気料金の上昇、そして安全性など、多くの視点を踏まえてエネルギーを選択していかなければならないと思います。一方で、原子力発電に取って代わって再生可能エネルギーを活用しようという意見もありますよね。再エネの活用も重要だと思いますが、私たちは、この問題をどう乗り越え、前に進むべきなのでしょうか。

鈴木

原子力か再エネかという二択の議論は設定自体が間違っていますね。リアリティーが欠けている。私はヨットに乗るのですが、船を動かすエネルギーで考えてみましょう。昔のヨッ卜は風の力だけで動いているイメージがありますが、今はディーゼルエンジンの動力を必要とするものが主流となっています。風任せでは無風や強風下で推力がコントロールできず、大変危険です。また、最近では太陽光パネルを載せているものもありますが、発電量が非常に少なく動力にはなりません。つまりエネルギーには、それぞれ役割があるということが明確に分かります。海では命にかかわってきますので、再エネだけで船を動かそうなどという考えは起こり得ません。つまりエネルギー問題も洋上にいるのと同様の危機感を持って、論理的に考えるべきです。危機感がないから、再エネ万能という"ファンタジー"が出てくるわけです。日本だけではなく世界中がこのファンタジーに浸っているような気がしてなりません。

松本

自然を相手にした海での厳しい経験を踏まえ、的確な状況判断が欠かせないとの考え方につながってくるのですね。リアリティーを欠いたエネルギーの議論は、日本の将来にとって良いはずがありません。夢やファンタジーでエネルギーを語ってはいけないと。

徹底した「現実主義」で

鈴木

そうです。東日本大震災を契機とした福島第一原子力発電所の事故はありましたが、ここでパニックを起こしてはいけません。船の上でパニックを起こすと、それだけ危険に近づくことになります。自然との闘いではなく、自分との闘い。いかに自分をコントロールして冷静に判断し対処できるか。そのためには、どんな場面においても、まず正確な情報を収集することが不可欠です。そして判断をする際は、目先の事象だけではなく、その後に何が起こるのかを想定しなくてはなりません。エネルギー問題に置き換えてみても同様の対処が必要です。正確な情報を得て、徹底的な「現実主義」で、そして100年後、200年後と先を考えるべきです。

松本

エネルギー問題は、長期的な視点が欠かせないということですね。

鈴木

例えば、化石燃料はいずれ枯渇するのは自明の理です。だから化石燃料に頼らずに大量の電気を作れる発電方法が必要になる。現時点では、それが原子力発電だと思います。ファンタジーの世界に陥らないためにも、先々を見据えた論理的な議論を重ねていくことが大事ですね。イメージや先入観でエネルギーを判断してはいけません。様々な意見を聞き、自分の言葉(意見)を持つことも必要です。

松本

確かに目先の事象のみにとらわれていては、大事な判断を誤りますね。議論を重ねることも大事です。その結果、日本のエネルギーは原子力発電も重要な選択肢だと分かってくるわけですね。

鈴木

やはり科学技術は前に進めなければいけない。科学の歴史からみても原子力発電は、進化の過程の技術だと思うのです。核融合発電など原子力発電に代わるエネルギーの実用化には相当な時間が必要でしょう。だからこそ原子力発電は、課題や困難に挑戦し、それを克服する努力が、いま必要なのです。前に進むべきです。ここで後退してしまっては、科学の進化が止まってしまいます。安全技術を向上させる機会さえも失うことになります。

挑戦する「再処理工場」

当社再処理工場(青森県六ヶ所村)

当社再処理工場(青森県六ヶ所村)

松本

原子力発電所で発生した使用済燃料を再利用する原子燃料サイクルの取り組みが青森県六ヶ所村で行われています。再処理の技術開発には様々な困難が伴いましたが、しゅん工に向けた努力が続いています。

鈴木

再処理工場は、原子燃料サイクルの環を完結させるために必要不可欠な施設ですね。原子燃料サイクルの推進は、エネルギー資源の乏しい日本にとって、資源の有効活用の面からも重要な取り組みです。これまで3回ほど取材させていただきましたが、再処理工場が担う役割は、現地に行ってみると分かります。ガラス固化体を貯蔵管理している施設にも入りましたが、分厚い壁や床で放射線管理が厳格になされていました。一方、使用済燃料の再処理の過程で発生する高レベル放射性廃棄物をガラス固化する試験では、苦労が続いたと聞いています。日本独自の技術開発に挑戦するということで、産みの苦しみだったと思います。新しいことに挑戦するには、困難が伴います。繰り返しになりますが、科学技術は試行錯誤を繰り返しながら、困難を乗り越え進展していくものです。そういった意味では、再処理技術の確立も科学技術の進化の一つの過程なのだと思います。

松本

現在はしゅん工に向けて、国の安全審査を受けています。つい先日、安全性向上のための様々な対策を見学させていただきました。特に冬は地吹雪もあることから、あえて過酷な状況で訓練することも知りました。

鈴木

あらゆる状況を想定して、事前に対策をとることは重要ですね。六ヶ所村は冬場の自然条件が厳しい。常に「もしも」を考えることで人間は鍛えられていくのです。平時からの準備、心構えが大事です。再処理工場は、設備もそこで働く人々も更なる安全性向上へ向けて鍛えられているわけですね。自然現象を完璧に予測することは不可能ですが、緊急時でも適切に対処できるように、日々の安全への鍛錬も是非続けていってほしいですね。

沼からの取水訓練(厳冬期)

沼からの取水訓練(厳冬期)

放水砲訓練(厳冬期)

放水砲訓練(厳冬期)

未来へ続く青森の選択

松本

再処理工場を中心とした原子燃料サイクル施設や原子力発電所などがある青森からはエネルギーの過去、現在、未来が見えてきますね。ここに来れば、日本のエネルギーを支える先端地域であると分かります。

鈴木

青森は、再処理工場、核融合の研究拠点などがあり、画期的なことをされていると思います。エネルギーに関して「開国派」の地域ですよね。先々を見通し、正しい選択をされていると思うのです。青森の皆さんとお話するたびに、「私たちが日本のエネルギー政策を支えている」という誇りを感じます。東日本大震災以降、エネルギー問題は感情的な議論、賛成か反対かの二者択一の議論になりがちですが、長期的かつ一貫性のある冷静な判断が必要だと思います。そうすれば、必ず良い未来が待っていると感じます。

松本

人類の進化の歴史を辿れば、人は困難に突き当たった時、言葉を磨きながら常に前へ進むべきということですね。その姿勢で未来を見据えれば、日本のエネルギーのあり方の「現在地」が見えてくるような気がします。

鈴木

そうです。人類の宿命。常に前を向いて進むしかない。私たちは、ネアンデルタール人になるわけにはいかないのですから。

松本 真由美 氏

東京大学教養学部客員准教授

松本 真由美

まつもと まゆみ 熊本県出身。上智大学卒、テレビキャスターとして活躍。現在は環境/サイエンスコミュニケーションを専門に教育・研究活動に従事。エネルギー問題をテーマとした講演·執筆など多彩に活動する。

鈴木 光司 氏

作家(代表作「リング」「らせん」)

鈴木 光司

すずき こうじ 静岡県出身。慶應義塾大学卒、デビュー作の『楽園』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。代表作『リング』『らせん』は日本のホラーブームの火付け役に。恋愛、育児などもテーマにジャンルの幅広さは異色。